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ひまわり

ソ連時代のウクライナを舞台に、戦争で引き裂かれた夫婦の悲恋を描いた映画「ひまわり」が、神奈川・横浜シネマリン、大阪・シアターセブン、新潟・高田世界館などで緊急上映されることが決まった。
「ひまわり」は、ネオレアリズモの名匠ビットリオ・デ・シーカ監督作で1970年に初公開された。イタリアを代表する名優ソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニが共演、ヘンリー・マンシーニによる甘く切ないテーマ曲にのって、互いに思い合いながらも戦争で別れざるを得なくなった夫婦の葛藤と哀しみが伝わってくる。日本でも大ヒットし、恋愛映画の金字塔を打ち立てたと言われる作品だ。
第二次世界大戦下、夫アントニオは厳しいソ連の最前線に送られ行方不明になる。終戦後、妻ジョバンナは夫を探しに単身ソ連へ渡る。しかし広大なひまわり畑の果てに待っていたのは、ロシア人と結婚し子どもにも恵まれた夫の幸せそうな姿だった。
物語の舞台となった有名なひまわり畑のシーンは、ウクライナの首都キエフから南へ500キロほどのヘルソンで撮影されたものだ。現代のウクライナでも、ロシア軍の侵攻が始まると、SNS 上では50年前の映画さながらにひまわりの絵や写真で平和を祈る投稿が相次いだ。ひまわりはウクライナの国花でもある。
世界で一番有名な反戦歌とも言われるフォークの楽曲「花はどこへ行った」もウクライナで生まれた名曲だ。アメリカのフォーク歌手ピート・シーガーの代表曲をピーター・ポール&マリーがカバーして大ヒットした。ミハイル・ショーロホフの「静かなドン」に登場する、ウクライナと南ロシアにまたがる軍事共同体コサックの民謡がベースになっている。
日本でも加藤登紀子はじめ多くの歌手によって歌われる。「花はどこへ行った、少女が摘んだ」という歌詞に始まり、「少女はどこへ行った、男たちのもとへ嫁いでいった」、「男たちはどこへ行った、兵士となって戦場へ行った」、「兵士はどこへ行った、死んで墓に入った」、「墓はどこへ行った、花で覆われた」と続く。途中「彼らはこの悲劇をいつ学ぶのでしょう?」と投げかける。
プーチンにとってのウクライナも、戦争で引き裂かれ行方不明になった夫アントニオのような存在なのではないだろうか?彼が広大なひまわり畑の果てに見たのは、愛してやまない珠玉のようなウクライナの大地と人民が、ソ連邦崩壊で自由主義諸国の一員として幸せになっていく姿だ。
一緒に苦しみを分かち合えると思ったウクライナへの、やりどころのない愛の裏返しがあるのだろう。

| 22.03.18

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