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KINTSUGI

UAEでドバイ万博が今年の3月31日まで開催されている。「Connecting Minds, Creating the Future (心をつなぎ、未来を創る)」 というテーマを受け、日本は伝統修復技法である“Kintsugi(金継ぎ)”の映像も紹介している。究極のグローバル化社会を体現する各国の中で、日本館は「器と人と伝統をつなぐ“金継ぎ”」の展示で異彩を放っているようだ。
“金継ぎ”とは欠けた器を漆で継ぎ、金などの金属粉で装飾を施して仕上げる日本の伝統的な修繕方法だ。始まりは室町時代頃とされ、中国や朝鮮半島から輸入された高価な陶磁器を修復する技術として確立してきた。傷跡をなかったことにするのでなく、漆技術の応用で金、銀、朱などを振ることで新しい器として生まれ返らせるところがユニークで、外国人にウケているようだ。
2015年にアメリカの人気インディーズロックバンドDeath Cab for Cutieがアルバム「KINTSUGI」を発売したことをきっかけに、Googleで「Kintsugi」の検索数が急増し世界で“金継ぎ”が認知されはじめた。
2017年春夏のパリコレでも、オランダのブランド「ヴィクター&ロルフ (VIKTOR & ROLF)」が明らかに“金継ぎ”からヒントを得た意匠のドレスで登場し注目を浴びた。
2019年にはカリフォルニアで女性2人によって「Kintsugi」という会社が創業されている。音声で心の健康状態を把握し、うつ病などの心の不調を早期に検知、ウェルビーイングを保つための行動につなげるヘルステック企業だ。「不完全なものの中に美を見出すこと」をテーマに、自分の欠点を受け入れ成長の中に美を見出せるような質の高いメンタルヘルスケアを広めることを目指す、哲学的とも言える会社で注目されている。
2020年、「国際平和デー」を前にしたニューヨークの国連本部における挨拶では、グテレス事務総長が「金継ぎ」に言及、「日本古来の伝統技法“金継ぎ”をすると、新品ではなくなるが新品より良くなる。分断され、ひびの入った世界にもこうした思いで向き合い、危機から抜け出し、より強くなろう」と述べている。
“金継ぎ”は物の物理的耐久性だけでなく、情緒的耐久性を上げるための手段ともなるのか。お気に入りのものが壊れても、金継ぎされることでかえって愛おしくなる。そうしたメンタル修復的な面でも大きな意味がありそうだ。
世界各国が目指す持続可能なSDGs社会に向けて、 “金継ぎ”の発想が哲学にまで昇華してきている?とは想定外だが面白い。

| 22.01.14

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