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略奪美術品

第二次世界大戦中にナチスが強制的に奪った「略奪美術品」の一部が元の持ち主に返還される法案が、フランス議会で最近可決された。
ポンピドーセンターやオルセー美術館などに収蔵されていたグスタフ・クリムトやマルク・シャガールの絵画など15点が、本来の持ち主とされるユダヤ系の家族に戻されることになったそうだ。
フランスのロゼリン・バシュロ文化相は、美術品を奪われたままにしておくことは「本来の持ち主の人間性、記憶、思い出を否定するものだ」と述べ、法案可決を自画自賛したが、メトロポリタン美術館、J・ポール・ゲティ美術館、ルーブル美術館、大英博物館、フンボルト・フォーラムなど世界の巨大な美術館・博物館は苦虫を噛み潰したような様相でいるだろう。一部のコレクションの正当性について常に疑義があったからだ。
マクロン仏大統領の指示で作成された報告書によると、アフリカの文化財の約9割が欧州の博物館に保存されているという。しかしその多くは植民地時代に奪われたものであって、これまでも「旧植民地の文化財を守る」という論理だけで返還を拒否することの限界を呈していた。
マクロン大統領は2017年に「これ以上、アフリカの文化遺産を欧州の美術館・博物館の囚人のように収容しておくわけにはいかない」と宣言し、ナイジェリアに対し「ベニン・ブロンズ」と呼ばれる青銅彫刻の一部を返還している。
一方大英博物館はフランスよりもはるかに多くのベニン・ブロンズを保有しているが、返還について話し合うことすら拒んでいるという。英国をはじめとする欧州各国の植民地法では「拾った物は自分の物」とし、武力で奪い取った物であっても合法的所有権があるとされている。
ナチスがユダヤ人らの犠牲者から略奪した「略奪美術品」も、推定65万点になることがわかっている。世界の美術館が美術品収集に細心の注意を払う必要がある時代になったようだ。ナチスが略奪したものは元のオーナーに返還するが、植民地からの略奪美術品は返還しないというのは整合性に乏しい。
そのような中全面オープンを控えている「大エジプト博物館」が、世界中に散逸した古代エジプト王朝の美術品を本国に集め、高いレベルで保管しようという試みで注目されている。日本のODAの援助無しには出来なかった世界最大級、空前の規模の博物館の実現に、エジプト政府は日本の貢献をリスペクトし、作品キャプションにアラビア語、英語に加えて、日本語を採用したそうだ。
最近なかった胸のすくような?良い話だ。

| 22.03.04

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