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スポーツウォッシング

サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会がいよいよ11月21日に開幕する。ロシアによるウクライナ侵攻の収束も見えない中、国際紛争下で開催されるこの世界的なメガイベントは、ここに来て「スポーツウォッシング」だと批判されている。ワールドカップを主催するFIFAだが、汚職で辞任に追い込まれた前会長プラッター氏ですら「カタールを選んだのは間違いだった」と言いだしているようだ。
「スポーツウォッシング」とは、個人、グループ、企業、時には政府が不正行為によって傷ついた評判を改善するためにスポーツを利用する際の用語、「スポーツ」と不都合を覆い隠す「ホワイトウォッシング」からできた言葉だ。スポーツイベントの主催、チームの購入またはスポンサー・競技への参加を通じて問題から周囲の注意を逸らし、自らのイメージアップに繋げることが多い。
「スポーツウォッシング」と聞いて直ぐに思い出されるのは、1982年に英領フォークランド諸島にアルゼンチン軍が侵攻したフォークランド戦争4年後の、W杯メキシコ大会の準々決勝だ。奇しくもイングランドとアルゼンチンが対戦することになった。
マラドーナは試合前のインタビューで、おおぜいの記者を前に「違う、違う、違う。これはサッカーの試合だ」と大見得を切ったが、試合開始51分にヘディングに見せかけ?ハンドでゴールを決めた。
それで終わればマラドーナの悪名は後世にまで語り継がれ、記憶に残るハンド先制点と言われ続けただろう。ところがその直後、彼は脅威の5人抜きによる2点目をあげ世界中の目がテレビにくぎ付けになった。この追加点でアルゼンチンはイングランドを下し、マラドーナは国の英雄「神」となった。そして彼のハンドは「神の手」と呼ばれ歴史に刻まれたのだ。自国勝利への欲求は誰にも止められなかった!?
今回の開催国カタールは、大会を前にLGBT(性的マイノリティー)への差別、移民労働者の権利の蹂躙、表現の自由などにまつわる論争が続き、国際社会に根深い不信感を与えている。そしてカタール政府は、有り余る石油マネーによる豪華な大会運営を通じて「スポーツウォッシング」しているとの批判が多いのだ。
カタールが「(黄金の)神の手」を使って大会運営を成功させるのか、FIFAが余りにもあからさまな政治的金満体質を露呈して自滅するのか、今大会は勝敗の行方以外にも見どころ満載と言える。
日本の元総理らによるオリンピック開催をめぐる多額の賄賂を「スポーツウォッシング」させないためにも、日本人にはここでW杯の表も裏も知る必要があるだろう。

| 22.11.18

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