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旅行以上移住未満

コロナ禍でリゾート、別荘地の不動産ニーズは様変わりしてきている。
リモートワークの導入や密を避ける狙いからか、東京圏の別荘地として名高い長野県軽井沢町や神奈川県箱根町、静岡県熱海市、千葉県鴨川市などに、首都圏からマルチハビテーションの熱い視線が注がれている。
そのような中、静岡県熱海市で起きた大規模土石流の原因が山間部の住宅開発での無理な盛り土にあると報じられた。あきらかに自然と人の共生を無視した結果だ。
「山の葉っぱが海の栄養になんのさ。山と海はつながっている。まるっきり関係ねぇように見えるもんが何かの役に立っていることは、世の中にたくさんあんだ」と、NHKの朝ドラ「おかえりモネ」で漁師の龍己が呟やく言葉が印象的だ。
世界中で急速に進む都市化と気候変動に伴う環境意識の変化の中、1984年にエドワード・ウィルソンが提唱した「人間は本能的に自然とのつながりを求める」という概念“バイオフィリア”への関心が高まってきている。
都市化が進むからこそ自然との共生が必要だとも言え、別荘は贅沢品として所有するのではなく多拠点居住の現実的なオプションとなり得る。自然と繋がる生活をどのように実践していくのか?今世紀の都市居住者の「住まいかた」を示唆する大きなテーマだ。
一方、今回の熱海伊豆山で起きた悲惨な大規模土石流で、当初救出された被災者の中には行方不明者リストに載っていない人も含まれていた。別荘の多い熱海市では住民票だけで居住実態を把握することは難しく、申告のあった安否未確認者の氏名と性別を公表していたが行方不明者の把握は容易くなかった。
熱海市の登録人口は2021年4月で3万5671人、前年比97.9%と見かけ上は激減している。しかしテレワークの拡大で、中古マンションを中心に実際の滞在人口は増えてきていたのだ。
今回の土石流災害は、定住には至っていない「旅行以上移住未満」という人々が把握されていないことを露呈させた。
熱海市は別荘所有者に固定資産税と都市計画税、市県民税の均等割以外に1976年からは別荘等所有税を導入して、税収を上げることには熱心だった。単に取れるところから取るだけで、行政にはマルチハビテーションのトレンドを積極的に受け入れていこうという頭脳回路が欠けていた。
不法投棄を繰り返したのは名古屋の問題企業だそうだが、行政にとっては税収に寄与する都合の良い業者であったのかも知れない。
今回の土石流災害は、静岡県と熱海市による“未必の故意”の結果とも言えよう。

| 21.07.16

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