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うっせぇーわ

最近、小学生が「うっせぇ、うっせぇ」と連呼しながら仲間とはしゃいで歩く。その姿はうっせぇーと言い合いながらも楽しそうだ。
「うっせぇーわ」はこの春に高校を卒業したばかりの女性シンガーAdoが歌って昨年10月23日にリリースされた“ボカロミュージック” だ。
YouTubeにMVが公開されるとあっという間に148日で再生回数が1億回を突破し、「うっせぇーわ」は一気に社会現象化した。 
彼女のパンチの効いた低い歌声は妙に説得力がある。耳について離れない「うっせぇー」というサビのフレーズだが、誰もが一度は感じたことのある大人社会への不平不満、反抗心や憤り、イライラが歌詞となり曲となって迫ってくる。
しかもこの「うっせぇー、うっせぇー」の連呼は青森のねぶた祭のかけ声「らっせぇー、らっせぇー、らっせぇーら」に通じるらしい。お祭りのように発散できて一回聞いたら忘れられない、そんなところが「うっせぇーわ」ヒットの要因だろう。
Adoが使っている歌声合成技術「VOCALOID」で楽曲を作るのが今のトレンドだ。Web上で「ボカロP(プロデューサー)」と呼ばれるクリエーターたちが日本の音楽シーンを席巻している。
ボカロPの代表的な存在が「ハチ」で有名な米津玄師だ。去年NHKの紅白歌合戦で顔が知られることになった「YOASOBI」のコンポーザーAyaseやEve、須田景凪やヨルシカのn-bunaなど数多くのアーティストが実はボカロPだったのだ。
彼らは原則、素性を明かさず顔を見せずに活動する。テレビよりYouTubeやInstagramを主戦場とし、存在を消すことで逆に新しい価値を生む。
コムデギャルソンのデザイナー川久保玲は2021年秋冬コレクションをモノトーンで統一して、「過剰な色、音、繰り返す情報の波から逃げて一息つきたいという思いが静かなコレクションを創造した」と語っている。ボカロPが素性を明かさずに楽曲を作っていく姿は、図らずも川久保の姿勢と相通ずるものがある。
ボカロPにとってプライバシーを保って誰に忖度することなく自由な匿名の楽曲を作ることは、TVが産んだリアルなアイドルやアーティストへのカウンターパンチだ。
これを裏付けるかのように、NHK放送文化研究所によると「10代20代の若者はすでに全体の半分しかテレビを見ていない」そうだ。
今世紀に入り今、世界の誰もが未曾有の不安に振り回され“疲れ”を感じている。若者は大人が作った“余計なもの”を取り払うことで自由を獲得していこうとしている。
テレビなし、新聞なし、電話なし、車もなし、俺らスマホがあればいい。団塊世代マーケットが消えた時、日本は変わる。

| 21.05.28

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