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ソーシャルハブ

ハンフリー・ボガード主演の映画「カサブランカ」(1942年)の舞台は、第二次世界大戦初期のモロッコの街カサブランカだ。ボガード演じるアメリカ人リック・ブレイン(実はアメリカの工作員)が経営するRick‘s Cafe American は、武力衝突前夜の“フランス国”ヴィシー政権のナチスドイツとのギリギリの交渉の場でもあった。カフェを舞台に戦局を左右するやり取りが行われていく。正に騙し騙される情報交換の場そのものだ。
Rick‘s Cafeは、ヴィシー政権に協力するフランス人からナチスドイツの将校、レジスタンスの闘士そしてモロッコの金持ちまで集まる表向きは中立な「ソーシャルハブ」だ。フランスの北アフリカ政策が産み出した前線基地カサブランカにおける社交場の役割を果たしている。
映画では戦時下の中立地帯で営まれるワクワクする日常の舞台裏を垣間見ることができ、更には第二次世界大戦のフランス国の微妙な立場とヨーロッパ戦線の情報戦の実態を感じ取ることができる。そしてそのような状況下でいかに「ソーシャルハブ」が大切なのかも。
現代では「ソーシャルハブ」というと、先ずはネット上のコミュニティを指すようだ。企業の商品やキャンペーンに関連したSNS上のユーザーオリエンテッドなコンテンツ(UGC)を収集・整理して、公式WEBサイトなどに一覧表示することと定義づけられている。何か機械的で薄っぺらで、ワクワクする雰囲気は全くない。
インターネットの普及は、AIが支配する検索エンジンが人々の行動を自動的に検知し課題解決を探っていくことを促した。人間の嗜好をAIが“忖度”する実にグロテスクな世界だ。
しかし新型コロナウイルスの世界的大流行によるリモートワークの拡大は、「Zoom」や「Teams」、ビデオチャット「Houseparty」などのコミュニケーションアプリに桁違いの成長をもたらした。今年3月に2,000万人程度だった「Zoom」のユーザーは今や2億人規模となり、「Houseparty」は3月のダウンロード数が前月比300倍にまでなっている。
そんな中、音声版SNSアプリ「Clubhouse」が公開前からシリコンバレーで話題だという。どこにいてもオープンな雑談を楽しめるソーシャルアプリとして、新しい体験を高い完成度で実現させようとするものだ。
「Clubhouse」が注目される理由は現実の「ソーシャルハブ」により近い感覚と、その場の一体感を生み出す同期性にあるようだ。音声だけだからこそ実現する、ネット上の究極のRick‘s Cafe Americanだ。
今やネットはバーチャルではなくリアルを求める。ネット上の「ソーシャルハブ」が最後は最も大切な人間の想像力を触発する“音声”に回帰し「Clubhouse」化する、とは面白い。

| 20.11.20

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