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シンクレティズム

世界でもまれな1300年という悠久の時を超えて現存する日本の宝物を見ることができる「正倉院展」が、今年も10月24日から11月9日まで奈良国立博物館で開催されており、コロナ禍下にあっても人気だ。
正倉院は奈良時代に建立された東大寺の宝物倉庫で、聖武天皇の遺愛品を中心に宮内庁が管理する整理済みの宝物だけでも約9,000点が保管されている。
毎年開催される正倉院展はその中から約60点、楽器、伎楽面、遊戯具、調度品、佩飾品、染織品、文書、経巻などで構成される。
中国メディア、今日頭条は2017年11 月30日版で、「1300年前に唐の玄宗皇帝と楊貴妃が日本の天皇に贈った宝物が、現在まで完全な形で残っているのは奇蹟だ」と称賛した。記事は正倉院にある宝物「螺鈿紫檀五弦琵琶」を紹介し、「中華文化絶頂期の面影を見ることができる逸品で、既に全人類共通の文化遺産である」としている。
しかし最新の研究では、中国のみならずシルクロードを経て日本にもたらされたと考えられている正倉院の収蔵宝物は、その90%が日本でその後複製された国産品であることがわかってきている。
聖武天皇の時代(701-756)に先進国中国から遣唐使などにより日本にもたらされた宝物は、世界の最新技術の結晶だった。それらにただ驚くだけでなく、複製作業を通じて如何にして最新技術を学び自らのものにするか、に当時の人々は必死だった。この血の滲むような国産化の努力によって、後に日本文化の源流に「シンクレティズム」という思想が深く刻み込まれたのだと想像される。
「シンクレティズム」とは主に哲学や宗教の分野で使われる言葉だが、「異なる背景を持つ信仰や文化を融合させる」という意味で用いられることが多い。日本は受容(借用)した宗教や外来文化から多くを学び、それらが日本の風土の中で独自に昇華発展してきた国なのだ。
現代の米国を上回る巨大帝国、唐に対抗すべく新しい国づくりを進め、混迷の時期に日本を導いた聖武天皇は、唐が宝物により国内外をまとめていることに倣い宝物の国産化を目指した。
それまでバラバラに生産されていた工芸品の技術者を一堂に集めて「内匠寮」と言われるエリート技術集団を作り、最高品質の工芸品を開発した。宝物の国産化は、日本を生まれ変わらせる乾坤一擲の秘策だったといえよう。
「シンクレティズム」を身につけた現代日本の課題は、世界の最先端に立つリーダーシップ力だろう。国際社会分断の危機を煽る世界の三大超大国を前に、日本には「シンクレティズム」という理念を武器に一石を投じることが期待される。

| 20.11.10

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