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移動力

「定住が人間の不幸のはじまりだった」、こんな衝撃的な書き出しではじまる長倉顕太著『移動力』(すばる舎) ( https://twitter.com/forest_nagakura ) が、なかなか興味深い。
編集者として10年間で1000万部のベストセラーを連発し、現在も東京、大阪、福岡、ハワイ、サンフランシスコなど世界中を移動する日々を送る著者は、「移動力は人生を劇的に変える」と説く。
決まった家に住み、決まった交通手段で決まった職場に出勤し、決まったメンバーといつもと同じ仕事をくり返す。そこには突然の変化は少なく安心感があるが・・・失っているものの方が多いと言うのだ。
人類の歴史を見てみると、農業を営むことで狩りをしなくなり、食物が安定し人口は増加する。人口密度が高まることで摩擦や疫病などが増え、生活が画一化して知恵を絞ることが少なくなる。定住にはこうしたデメリットが多くある、と著者は主張する。
移動を続ければ常に新しい状況に遭遇し、サバイバル能力が発揮される。安定した場所では使われることのなかった力、本来の自分自身の能力が出てくるようになるという。
國分功一郎の『暇と退屈の倫理学』(朝日出版社)の中でも、同様のことが書かれている。「なぜ人は退屈するのか?そしてそれとどう向き合っていくのか?」と問いかける。
人間はもともと移動しながら食料を得る「遊動生活」を送っていたが、農業を知って定住し、それまで持っていた環境適応能力を「持て余す」ようになってしまう。その「持て余し」がすなわち「退屈だ!」と論じる。
先行き不透明な今の時代だからこそ、しなやかな思考力と行動力を手に入れることが必要だ。そんな力を身につけるために「移動力」が貴重だと2人は主張しているのだ。
日本列島は行き止まりの場所である。何千年もかけて大陸から移動を繰り返してきた日本人の祖先は、ある時稲作を手に入れて列島に定住。その時から、環境適応能力を「持て余す」ようになってしまったようだ。
4世紀初めから5世紀にかけて、中国大陸と朝鮮半島は、激動の戦国時代だった。半島の覇権争いを勝ち抜いた王達は日本列島へ渡ってその支配者(天皇)となり、最後の安定を求めた。彼らにとってわが国はファイナルリゾートだったのだ。
日本人は先陣を切って問題解決に臨むのが苦手だ。そういう姿勢は大移動の終点としての列島の位置から来る、と考えると納得がいく。
日本列島は、今や民族移動の終点ではない。新しい秩序を求めて、日本には「移動力」が必要だ。
退屈している暇はない。

| 19.09.20

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