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サムライ・トレイル

旧中山道の宿場町である馬籠宿から長野県南木曽町にある妻籠宿までの約9キロ、3時間ほどの峠の道のりを散策することが、「江戸時代の旅を味わえる」と今、外国人観光客に人気だ。
この“ハイキング”、2年程前にイギリスBBCのホームページ内で “Samurai dreams along an ancient trail” ( http://www.bbc.com/travel/story/20170120-samurai-dreams-along-an-ancient-trail )として紹介されたことで人気に火がついたようだ。
外国人の峠越えが2009年度の約5,850人から2018年度は約3万1,400人と5倍以上に増えた一方で、峠を歩く日本人は年々減って2018年度は全体の4割以下となった。
昨年65の国・地域の人が来訪したというが、うち33は英国、フランス、スペイン、ドイツなどヨーロッパの国々だ。英国の女優ジョアンナ・ラムレイも、「過去へタイムスリップしたような気持ちで徒歩で進む」と紹介している。
古い宿場街の風景と、街道筋に残る鎖国とサムライに代表される江戸文化の香りは、外国人にとって興味がつきないもののようだ。
江戸から各地へと通ずる街道筋の魅力は「参勤交代」によって作られたと言っても良いだろう。「参勤交代」による江戸の文化の拡散は、当時のトレンドの中心地日本橋界隈のモノと情報とサービスを日本中に知らしめたと考えられる。
宿場町は各藩の殿様と家来という最も高貴で教養のある富裕層にサービスをする機会に恵まれていたわけで、また藩主自らの経験を通したトップダウンは自藩の文化醸成に役立ったと思われる。
「参勤交代」の真の功績は「人・モノ・金・情報の積極的な移動と交流」を競い合わせたことだ。日本の地方文化はこれにより磨かれ高められていった。しかも各藩は、我が藩が一番とばかり名産品を開発して将軍に献上していた。
江戸時代はわずか260年ほどではあるが、日本人のモノづくりはこの間に急速に成熟したと言われている。
現代日本の地方文化にとって、かつての「参勤交代」に当たるものは何か?それは4千万人に迫ろうとする“インバウンド観光客”であろう。
江戸時代の支配層である武士が堅持してきたストイックに忠義を守り抜くという信念は、明治維新を経てもなお残り、お客を喜ばせようとする街道筋のサービス精神と融合昇華して世界に誇る地方文化の数々を創り出してきた。
グローバル市場で売れる普遍的なモノとサービスは、海外からのお客様に磨かれて初めて一流になる。これが地方創生の原点だ。
日本人はグローバル社会からみると、鎖国によるガラパゴス化が生み出したまさに“珍種”だそうだ。
「観光産業」育成のためにも、この珍種を生み出した江戸時代の「参勤交代」メカニズムを再評価してはどうだろうか?

| 19.07.19

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