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顔真卿

現代につながる中国の漢字表記は、東晋時代の書聖・王羲之(Wang Xizhi A.D.303~361)によって完成された。
しかし現在肉筆で残る最古の書は、唐時代後期の偉大な書家・顔真卿(Yan Zhenqing A.D.709~785)のものと言われている。楷書・明朝体の元になった顔法と称される筆法の書を含む展示が、東京国立博物館で特別展『顔真卿―王羲之を超えた名筆』( https://ganshinkei.jp/ )として開催されている。
今回は台北の国立故宮博物院に所蔵されている顔真卿の肉筆「祭姪文稿」をはじめ、王羲之、欧陽詢、懐素、空海らの作品が一堂に会する奇跡の展示会とも言われている。
古事記より古い「祭姪文稿」は、「1400年前の紙、1回の展示につき1回の劣化を被る」という破損が懸念され、めったに展示は行われてこなかった。国外では1997年に米ワシントン・ナショナル・ギャラリーで展示されたのが最後。台湾でもほとんど公開されないのに、なぜ今日本で公開されるのかと大いに物議を醸したようだ。
入場者の中にも中国語が多く聞かれ、全ての作品を真剣に見入る姿に、“書の神髄”は中国にありと感じさせられる。
現代の漢字には大きく分けて簡体字と繁体字の2種類が存在するが、繁体字は唐時代の形を保ち台湾と香港で使われており、日本で使われる漢字に非常に近い。
簡体字は50年代以降中華人民共和国で作られ大陸で普及した。清朝末期に大半の国民が文盲であったことが国力を弱めたという反省から、簡略化し覚えやすくしたものだ。しかし最近になり、言葉は通じても漢字文化を失ったとして繁体字を見直す動きがあるらしい。
例えば繁体字の「愛」には「心」があるが、簡体字には「心」がなく「心の無い愛」になってしまったと。
これは15世紀の朝鮮で世宗大帝が発音記号に近い朝鮮文字ハングル(訓民正音)を創出し、文盲対策として普及させたことに似ている。結果文盲は少なくなったが漢字文化を失ったと言われているのだ。
今回多くの中国人インテリ層が大陸・台湾を問わず、わざわざ日本の顔真卿展覧会を見に来るのは、偉大な中国の漢字文化に対するリスペクトに依るものだろう。
日本への美術品レンタル料は高く台湾にとっての経済的なメリットが大きいが、今回は中国による国外での差し押さえのリスクを押して日本に貸し出しを許可した蔡英文台湾総裁の英断を高く評価したい。
朝鮮半島で繁体漢字が今も通用していたら、日韓関係にももう少し共通の「心」が存在していたかもしれない。

| 19.02.22

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