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ラグジュアリー開発

世界遺産の仁和寺(京都市)が境内の別棟「松林庵」を高級宿坊に改築し、5月から京都を訪れる超富裕層向けに1泊100万円(税別)で宿泊の提供を始めた。( https://style.nikkei.com/article/DGXMZO32139620S8A620C1H52A01?channel=DF220420167277 )
宿泊は1日1組で、歴代の住職が執務室として使った「御殿」も一晩貸し切りで使用できる。朝食には精進料理が用意されるが、オプションで懐石料理、その他雅楽鑑賞、生け花といった日本ならではの体験も楽しめるという。
改修費に約1億5700万円をかけた「松林庵」だが、これで素泊まり1泊100万円?と思うダサいところがある。平安貴族が使った御殿と庭は特別な素晴らしさだが、宿坊改修のピントがずれている。どうも超富裕層が求めているものに対する迷いに起因するようだ。
いずれにしても創建から1100年余りに亘り、退位した天皇などの皇族が代々の住職を務めてきた由緒ある寺院で、プライベートな時間を過ごす醍醐味は究極と言える。
一方、スーパーヨットで世界を旅する超富裕層を日本に呼び込み、伊豆半島の南端、下田市を盛り上げようという試みもある。1854年に日米和親条約が締結された際に開港した下田は、いわば近代日本の玄関口でもあるという理由らしい。しかし、安田造船所が所有する土地を利用して東京から気軽に遊びに行けるラグジュアリーリゾートを開発する試みは、東京には来ていないと言われる超富裕層を東京から引っ張ってくるという前提自体が矛盾している。下田を無理やり超富裕層と結びつけるのは不自然だ。
IR実施法が日本でも成立したが、IR(統合型リゾート)とはカジノのみならず、ホテル、劇場、パーク、美術館、MICE施設などを持つ。面積では5%未満に過ぎないが、カジノという強力なハイエンド集客装置のおかげで超富裕層が来る可能性が増大して行く。
連動してカジノ以外の施設、特にプライベート空港、100フィート超のヨットのためのハーバー、オーバー7スターのホテルなどの採算性が高まってくるのだ。これがIR開発の醍醐味といえよう。
人種や国籍ではなく“保有資産”によって旅行者がカテゴライズされる時代が来つつある中、超富裕層の好奇心と発信力は、日本のラグジュアリー開発を動かす大きな力となっていくであろう。
IR開発は日本の新しい産業創出の好機であるが、残念ながら現在の日本に担い手は少ない。

| 18.10.05

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