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画狂人

人間の能力はどの様に発揮され進化していくのだろうか?最近、それを考えさせられる対照的な事件?が二つあった。一つは驚愕の絵師、北斎展、もう一つは電通の不適切残業認定判決だ。
ロンドンの大英博物館で、5月25日から8月13日にかけて特別展「Beyond Great Wave」(http://www.britishmuseum.org/whats_on/exhibitions/hokusai.aspx)が開催され、異例なほどの盛況のうちに幕を閉じた。88歳まで絵筆を握った北斎の肉筆画、下絵、版画、版本などの代表作を、日本および大英博物館を含む欧米各国のコレクションから一挙に公開するという大々的なものだった。
1999年にライフ誌が選定した「この1000年で最も重要な功績を残した世界の人物100人」に、日本人でただ一人選ばれたのが葛飾北斎だ。ロンドンの展覧会のタイトルにもなった「The Great Wave」は、北斎が70歳を過ぎてからの作品『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏』の英語の俗称だ。享年88歳、死を前にした北斎は、「せめてもう10年、いや、あと5年でもいい、生きることができたら、わたしは本当の絵を描くことができるのだが」と嘆いたという。この偉大な絵師は、最後の最後まで描くことにこだわった。
片や社員の残業を管理できなかったとして電通の有罪が確定し、たったの50万円が支払われた事件。北斎は当時のいわゆるポップアーティストで狩野派などの正統派日本画家ではない。版元の刷り師を通じて版画が世に出て行くまで、残業どころか家にも帰れない生活の弟子たちが北斎の作品を支えていたであろうことは容易に想像がつく。超絶した作品、商品を生み出す時、残業などという概念自体全く馴染まなかったに違いない。クリエイターと実業を結ぶ代理店の仕事にも、とうてい残業の概念は馴染まない。
生涯現役という概念は、技術者や企業内クリエイターだけでなく、あらゆる職人、農業漁業従事者、接客・営業道を追求する人の組織化された業態にあっても、本来は追求したいライフスタイルなのではないだろうか?体に変調をきたし止むを得ずリタイアする場合もあるだろうが、人は自分の仕事に誇りを持って全うしたいものだと思う。
受動的作業に従事する人を強制的残業から守ることは必要だが、能動的創造的作業にブレーキをかけるのは大きな国家的損失だ。
日本が再度世界をリードする経済大国になるためには、あらゆる分野で画狂人ならぬ超人的能力を引き出す努力を受け入れる社会が必要である。そこに定年も残業という概念も入り込む余地はないだろう。

| 17.10.20

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