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新・貧困

今年のカンヌ国際映画祭で、壮絶な貧困を描いたイギリスの80歳の巨匠ケン・ローチによる『I, Daniel Blake』がパルムドール賞を受賞した。
デビュー以来、労働者階級や移民といった社会の底辺で生きる人々の過酷な日常を映し出してきた巨匠が今回テーマにしたのは、母国イギリスの新しい貧困の問題。心臓発作を起こして大工の仕事を続けられなくなった59歳のダニエル・ブレイクが、失業手当を申請しようとするも行政に翻弄されて尊厳を失っていくさまを通して、貧困の壮絶な苦しみ、そして人としての尊厳を失うとはどういうことなのかを容赦なく突き付け、現代における貧困とその不条理さを浮き彫りにしている。
イギリスの慈善団体クライシスが1月に、「ロンドンの路上で夜を明かす人々の数は、2009年と2010年には3673人であったが、2015年には7500人に増えた」と発表。その理由として、他のヨーロッパ諸国からロンドンに移住した人々に対するイギリス政府の支援策の失敗を挙げている。近年のイギリスでは、政府が社会保障支出の削減を進めようと「働き者と怠け者」(給付受給者は怠け者で、ちゃんと働く人が不利益を被っている)というレトリックを使ったため、病気や障害で働くことができない人たちや本当に給付を必要としている人たちまで悲惨な状態に追い込まれているという。
またアメリカでは昨年の秋3つの都市で、ホームレス増加による非常事態宣言が相次いで発令された。特に南の楽園ハワイでの非常事態宣言(http://edition.cnn.com/2015/10/17/us/hawaii-homeless-emergency/)は世界の人々に衝撃を与えた。米国勢調査局によると、ハワイの人口は約136万人だが首都ワシントンD.C.に次いで全米で2番目にホームレスが多く、住民10万人あたり465人と、その割合は全米50州で最も高いといえるようだ。摩天楼の影に、そして楽園のビーチに、すべてを失った人々が生きている状況は何を示しているのだろうか?
リーマンショック以降、アメリカは相次ぐ金融緩和を行うことで辛うじて株価を維持してきた。その結果アメリカのみならずG7と呼ばれる経済先進国?では、実体経済に必要なマネーサプライの3倍以上の巨額な資金がマーケットに投入されている。そして人口の1%と言われるスーパーリッチが出現している反面、実体経済は疲弊し底辺であえぐ人々が増えて来ているのだ。ダブついた資金の引き締め目的でFRBは利上げのタイミングを窺うが、利上げはドルを強くし持てる者を更に強くするだけでもある。
トランプが大統領候補になったのも頷ける。

| 16.06.10

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