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壇蜜的終活

7月に産経新聞出版から創刊された季刊雑誌『終活読本 ソナエ』」が、予想以上の売り上げで2回の増刷を重ねているという。「終活読本」とあるとおり、主に中高年向けに人生の終わりを迎えるための備えを、さまざまな切り口から提示するという雑誌だ。しかし、単なるハウツー本ではなく、日本人の死生観に迫る内容が関心を集めたようだ。
そして、記念すべき創刊号の表紙と巻頭は、葬祭の専門学校に通った経験のあるタレントの壇蜜が飾っている。壇蜜という芸名は、仏教用語で供物(くもつ)を供える場所を意味する「壇」と、供物そのものを意味する「蜜」を組み合わせたもので、 “お見事!”とも言うべき起用だ。とかく暗くなりがちなテーマを、いまもっとも旬なセクシータレントがかつて死に近い仕事をしていたということで、読者へのハードルを下げることにも成功している。
壇蜜も葬儀学校ではエンバーミングという遺体を保存・修復するための技術を学んだそうだ。神奈川県平塚市にある「エンバーマーコース」を持つ日本ヒューマンセレモニー専門学校への資料請求は、東日本大震災を境に1.5倍に増え、「葬祭ディレクターコース」の定員も増やしたそうだ。また、東京の巣鴨にある「葬祭マネージメント学科」を設置する駿台トラベル&ホテル専門学校も震災を機に志願者、特に高校卒業後すぐに入学を希望する人が倍増との事。
先日総務省統計局が発表した「高齢者」についての統計よると、65歳以上人口は3000万人を超え、高齢者の総人口に占める割合は24.1%で過去最高となった。ほぼ4人に1人が高齢者だ。その一方、死亡人口がピークを迎えるのは2036年で176万人と予測されている。1996年では人口1000人あたりの死亡率が7.2だったのに対し、2050年には15.1と死亡率も2倍以上となり、葬儀はそれだけ多くなる。高齢化社会は、若者の負担を増やすように言われがちだが、皮肉にもキャッシュリッチな高齢者の存在と死そのものが、若者の仕事を作り出すとも言える。
「年をとるということが既に、新しい仕事につくことなのだ。」とは、かのゲーテの言葉でもある。

| 13.09.20

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