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音頭ビート

連続テレビ小説『あまちゃん』が大変な話題作となり、前衛音楽家の大友良英が担当した劇中音楽も、今や作った本人の予想をはるかに超えて、熱風のように日本全国に広がっている。大友良英が意図したかどうかは別として、短い時間でインパクトを与えるドラマと、あの独特の“音頭ビート”は相性が良かったのだろう。時を同じくして「音頭」という楽曲形式が、ロックやクラブミュージック、先鋭的な音楽ジャンルで取り入れられ、閉塞感漂う現代社会を一気にひっくり返す新風を起こしている。
ファッションモデル出身の人気歌手、きゃりーぱみゅぱみゅの最新アルバム『なんだこれくしょん』のタイトル曲も、前半が音頭の形式だ。和太鼓の音色に「ぱみゅぱみゅ」という合いの手が入る。音頭で始まって、途中からエレクトリカルパレードのように変調し、音頭とマーチが数十秒の間に展開されるというまさに異形の楽曲だ。 彼女の存在そのものが“テーマパーク”と評される所以だ。また、インドネシア発祥の高速ダンスミュージック“FUNKOT”を取り入れたアイドルとして人気上昇中のhy4_4yh(ハイパー ヨーヨ)が、日本の夏の象徴である花火と音頭のビートを融合してリリースされたニュー・シングル、「はなびーと」が人気を集めている。異様に暑くなり続ける日本の夏に、ライヴ会場での反応は凄まじい。
“音頭ビート”は、日本の労働歌において古来より存在した大衆扇動型楽曲形式のひとつだ。曲の主要部分を太鼓や笛の音にあわせ独唱者が独唱し、それに大勢の民衆が「エ~ンヤコラ」などと合いの手を唱和し、次第に盛り上げていく。もともとは苦しい労働を乗り切る麻酔効果を織り込んである。
しかし今なぜ、リズムパターンが出尽くした感のあるPOPS中で“音頭ビート”が変貌自在に活用され、新しいリズムとして注目されているのだろうか?理屈ではなく、日本人が明らかに身体で反応してしまう“音頭ビート”は、欧米志向のPOPSの中にあって日本的なものへの憧憬と、麻酔効果を必要とする閉塞感のある世の中へのやるせなさとの混じり合いが背景にあるのではないだろうか?これが『あまちゃん』ヒットの原因?閉塞する世の中に立ち向かていく子(自分)への「エ~ンヤコラ」が日本のパワーの源なのか?

| 13.08.30

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