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天然神話

「養殖」と書かれている魚は避けて、極力「天然」を選ぶという人は多い。一般的に、「養殖より天然のほうが安全でおいしい」と思われているが、本当にそうなのだろうか?肉には「天然」を求めないのに、魚には「天然」を求めるのは何故なのだろう?
確かに旬に限れば天然の魚介類はおいしい。一般的には、養殖の方が栄養管理されているのだが、日本人には何故か「天然」の方が人気がある。しかし、季節や獲れた漁場、さらには個体差によって不安定な天然物に比べ、養殖物は個体差すらコントロールできるようになってきている。かつて養殖物は抗生物質(抗菌剤)の含有量が多く危険と言われていたが、養殖技術が向上したことで飛躍的に改善され危険度は激減している。育った環境やエサ、投薬状況などがわかるので、どこで生まれ育ち、どんな環境で、何を食べてきたのかが把握できている養殖物は、天然物に比べリスクが低いとも言える。原発事故や中国沿岸の海洋汚染が進んできた現在、養殖物の方が安全・安心なのかもしれない。日本人は養殖魚に対して偏見を持ち過ぎていないだろうか?
世界における魚介類の養殖生産量は2010年に5987万トンとなり、過去10年間でほぼ倍増している。新興国の経済成長や人口増加、養殖技術の進歩などにより、高級魚やエビなど輸出用だけでなく、湖沼などでの小規模な養殖も盛んになっている。それに対し、天然の漁獲高は9000万トン前後で近年は頭打ち傾向にあり、国連食糧農業機関(FAO)などによると、食用に限れば18年にも養殖の生産量が天然を抜く見通し。国別では中国の養殖が3673万トンと桁違いに多く、アジア諸国が上位10カ国中8カ国を占める。日本は天然の漁獲高は約400万トンで7位だが、養殖は11位の71万トンにとどまっている。かつて日本は自分で獲って自分で消費していたが、今や魚介類輸入高がEUに次いで2位となり、世界の海洋汚染の影響を最も受けている国とも言えるのだ。
汚染が進む中国の東側に位置することを考えると、「天然」ばかりにこだわることは、世界で最も危ない魚を食べている?ことになりかねない。江戸前や天然物にこだわって“ギャンブル”する時代は終わった!?

| 13.02.01

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