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いか文庫

実店舗を持たず、ネット通販も行っていない“エア本屋”「いか文庫」が注目されている。運営しているのは、イベントを通じて知り合った「店主」「バイトくん」「バイトちゃん」の3人だ。彼らは、それぞれほかの仕事をしながら「いか文庫」の活動をしている。
なぜ「いか」なのか?大のイカ好きの「店主」さんのケータイケースが、足のついたイカの形だったから、と深い意味はないらしい。雑談中に『もし自分の本屋を持つとしたら』という話になって、「いか文庫」という名前を思いついたのだそうだ。それ以降「いか文庫」は、「どのようにすれば、本を楽しく売買できるのか」を「妄想」しながら、いつどこで開店しているかわからないけど、それでも日々どこかで営業している“エア本屋”を開業。フリーペーパー「いか文庫新聞」を発行したり、Twitterで「本日も営業中」と呟いて、本を紹介しているうちに注目を集め、実際の書店でフェアを任されるまでになった。現在紀伊國屋書店新宿本店7階で、「いか文庫的新宿本」と題したフェアが開催されている(2013年1月31日まで)。3人のスタッフが、独断で選書した新宿にまつわる本を紹介、全てにPOPを付け、セレクトの理由などを表記し販売している。村上春樹著「ノルウェイの森」(講談社)、渡辺克巳著「新宿、インド、新宿」(ポット出版)、阿部夜郎著「深夜食堂」(小学館)など多様な書籍が集まっている。「会期中は何度でも楽しんでいただけるように、少しずつラインアップに手を加えて行こうと思っている」そうだ。
「いか文庫」は、荻窪や中野で、本を語り合ったり、書店のポップの講習をしたりする「イカナイト」というイベント活動も行っている。
モノ離れの中、「モノからコトへ」とは、流通業界では使い古された言葉だ。それに対し、情報処理技術は、モノを仮想化することで、直接コトに結びつける力を持つと言われている。そうした考えをもとに、まず“モノ”ありきではなく、まずは“コト”ありきで、仕入れやテナント料といったリスクもなく、店舗も商品もない妄想上の書店としてスタートしたのだ。 趣味の延長線のようにゆるい自己表現で、実態がないにも関わらず口コミで注目を集めながら、リアル店舗の軒先で本やグッズを売る。「イカが泳ぐようにフワフワとやっていければいい」と自由気ままだ。“なんちゃって”起業スタイルの可能性はまだまだ高まる気配、ネット文化の成熟化現象だ。

| 12.12.28

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