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おくりいえ(家)

古き良き日本の趣を残す街、金沢。その象徴とも言える町家には、高齢者の単身居住が多く、相続時に取り壊されることが多い。その数は毎年200棟以上にも及ぶそうだ。京都をはじめ全国各地で町家再生に向けた動きが広がる中、本来であれば保存・再生することが好ましいが、多くは取り壊しを避けることはできないと聞く。そこで、せめてキレイに掃除をして"見送ろう"ということで「おくりいえ」プロジェクトと名付けられた取り組みが、2010年から展開されている。「おくりいえ」の運営は、その都度つなぎを着て集まる「つなぎ隊」が、町家をピッカピカに掃除した後、眠っているお宝を持ち帰るというイベントだ。「ものをつなぐ、心をつなぐ、家族を守ってくれた家に感謝する」という思いから始まったその活動の成果は、取り壊されずに引き継がれる町家が増えてきている事に表れている。少しずつ「おくりいえ」の「送る」が「贈る」に変わりつつある。金沢の町家が拠点となって、思いをしっかりとつないでいく、ぬくもりが伝わるプロジェクトとして注目が集まっている。
片や最近、新建材を使った新築にかっこよさを感じない若者が増えているそうだ。コスト面や、立地条件の良さなどからも、優良な中古マンションをリフォームする方に価値があるとする傾向も高まってきている。しかも床の材料を選んだりする時も、経年変化が出る無垢材を選ぶのだという。若い世代が、自分たちの感性や生活に住まいを合わせられると、中古のリノベーションに魅力を感じ始めている。立地という資産価値、品質とコストパフォーマンスを見据えながら、住まう人のこだわりを表現できることが、これからの住まい方のポイントになっていくだろう。
古さへの抵抗感がなく、むしろ古さに親しみを覚え、古さの中に身を置きたいと思うのは、常に新しくなっていくデジタル社会への反動なのだろうか。単にノスタルジーという情緒的なものでなく、古いものから生まれる新しい表現や解釈は、現代の生活に受け継いでいける貴重なエネルギーとなって、都市に成熟をもたらしていく。20年にも及ぶ経済の低成長は、見方を変えると熟成への道とも言える!?

| 12.06.22

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