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マルチチュ―ド

ウォール街を象徴するアメリカの金融機関が推進するグローバリズムの悪影響に抗議し、ニューヨークのマンハッタン地区で始まった「ウォール街を占拠せよ」運動は、ボストン、シカゴ、ロサンゼルス、シアトル、サンフランシスコなどアメリカの各都市に広まった。運動への参加者は、アメリカの金融機関が富裕層の利益のために活動していると考えており、アメリカの経済状況や支配システムにおける腐敗、失業に抗議しているが、加えて、イラクやアフガニスタンにおけるアメリカの戦争にも抗議している。ここ1ヶ月、イギリス、ドイツ、イタリア、スペイン、アイルランド、ポルトガルといった国においても、「ウォール街を占拠せよ」運動を支持する大規模なデモが行われた。こうした動きを、イタリアの政治哲学者アントニオ・ネグリらは、マルチチュード(Multitude)と呼んでいるようだ。
マルチチュードという言葉は、古くは政治思想家たちが用いた政治概念であるようだが、ネグリとデューク大学文学部准教授であるマイケル・ハートの共著、『帝国』や『マルチチュード』の中で使用され、再び注目を集めた。超大国の覇権によるグローバルな世界秩序である帝国主義に対抗して、学歴、年齢、出身、人種、民族を問わない文字通りマルチな人たちが、スローガンを掲げ、ひとつの勢力でありながら多様性を失わない、同一性と差異性の矛盾を問わないで起こしている運動を言い表している。
今の世界的な同時不況、経済の破綻状況は、世界の大手金融機関の大株主である富裕層がリードしたグローバリズムの失敗によって生じたと考えられている。そのツケを何故一般大衆が負わなければならないのかという不満が、人を結びつけるソーシャルメディアの働きによって、新しい大きな動きとなったことは見逃せない。
こうした運動が世界の多くの都市に飛び火している一方で、なかなか火がつかない都市もある。パリと東京がその代表だ。フランスと日本の社会は、他の先進国や、中東産油国、及び中国・ロシアといった超大国に比べて、相対的に富の再配分がうまくいっており貧富の差が少ない。ある意味この2つの国が、これからの民主的グローバリズムの進む方向を示唆しているのかもしれない。
面白いことに、この2つの国は自動車産業が発達しているのに超リッチマンの車が存在しないことでも不思議と一致している。

| 11.11.18

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