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“i”スタイル

先日亡くなったスティーブ・ジョブズは、度々、「いい芸術家は模倣し、偉大な芸術家は盗む」というピカソの言葉を引用した。IT業界においても長いパクリの歴史があるからだ。革命的なデスクトップコンピューターだった初代「マッキントッシュ」は、ゼロックスのバロアルト研究所で生まれたコンピューター「Alto」のOSのアイデアから影響を受けた。それまでマックOSとは発想で一線を画していたマイクロソフトは、そのマックに急追されるに至って、非常に近い発想を持ったOS「ウィンドウズ’95」を発表せざるを得なかった。そして、グーグルの携帯電話向けOS「アンドロイド」は、明らかに「iPhone」のパクリ、といった具合だ。そうした中で、ジョブズ氏が創設したアップル社が他のIT企業と最も大きく異なるところは、嘗てのSONYがそうであった様に、常に革新的なハードウェア機器をベースに新たなライフスタイルを提供してきたことにある。
アップルの製品に" i "がつき始めたのは、1998年に登場したiMacからだった。そのプレゼンでジョブズはこれまでのパソコンの悪い点をあげて、「どれもダサい“Ugly!”」と言い放った。そして、新しいiMacの名前を出し、" i "を5つの単語で説明した。「Internet」、「Individual」、「Instruct」、「Inform」、「Inspire」
その後もたくさんの" i "がつく製品を生み出し、" i "には日常的に簡単にカッコよく音楽やインターネットを楽もうという思いが込められていることを、ユーザーにしっかり体感させた。そして、こうした魅力的なハードウェアを大量に売ることで、iTunesに始まるコンテンツビジネスをも成功させる構造をつくり上げたのだ。
最近のモノづくりでは、ネットワークだ、コンテンツだ、エコだとかがとかく優先され、それを製品の売りにすることが多い。従って、できあがる製品そのものが妥協の産物であるが、アップルにおいては、スティーブ・ジョブズというたった一人の人間の「ライフスタイル」の美学が貫かれており、そうした個人の「スタイル」へのこだわりが製品を通じてユーザーに強く伝わってくる。それゆえに彼の死後、アップルユーザーの間で“ジョブス・ロス”とも言うべき喪失感が広がったのかもしれない。
「モノづくり」をする企業は、「美しくなければ、道具ではない」というスティーブ・ジョブズの、ライフスタイルを様式美にまで昇華させようとした意志力を、どうせなら模倣してほしい。特に、力を持ったサムスンにとってはそれが課題だ!

| 11.10.17

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